泣いている奈々。追いかけてきた紬。紬に気づく想、そして奈々。
思わず立ち去ってしまう紬と、反対方向に歩く奈々。
想が追いかけたのは紬だった。
切ない。奈々の気持ちになると、どれだけ苦しかっただろう。
でもここで、ちゃんと「追いかける相手」を間違えないのが想くんなんだよなあ。
間違えないって言うのは、ちゃんと「好きな人」の方を追いかけること。泣いている奈々ではなくて、「好きな人」である紬を追いかけるとこ、そういうとこ、想くんってモテる人なんだろうなあって言うのが分かる。
「奈々と話したの?」
「うん、話した。ちょっと」
「何話したの?」
「……大丈夫。大丈夫。水かけられたりしてないし」
「奈々、泣いてて…」
「泣いてた。うん。私のせいかもしれなくて…わかんなくて…あ、えっとなんて言えばいいんだろう」
「青羽は大丈夫?」
「うん?」
「昨日、ちょっと喧嘩になって、聴者とろう者と中途失聴者、みんな違うから分かり合えないって言われた」
「…」
「青羽には関係ないから気にしないで」
「関係ない?」
「巻き込んでごめんね」
「みんな違うから分かり合えない」って言葉は、想と奈々のことを指しているようで、想と紬にも当てはまるんだよね。だからこそ、何て返したらいいかわからない沈黙を紬は作るけど、想は心配かけたくない想いで、「関係ないから」と言う。好きな人の大事な人とのことを「関係ない」って言われた紬はもっと気持ちが複雑になっちゃう。難しいね。聞こえる、聞こえないに関わらず、難しい。
本棚から本を取り出す奈々。
想の家に返しに行った時、偶然にも鉢合わせてしまう。
いつも明るくて、想よりもお喋りで、ちょっとあざとい女の子だった奈々が不安そうに本を返す姿を見て、ちょっと小さく見えた。
家の中に入れるか、でも…って迷う姿がなんとも真面目な想くんらしくって、それに気づいて「ここで待ってる」って言う奈々に、外廊下で本を広げる二人が可愛らしかった。
「想くんが勧めてくれる本、正直あんまり面白くなかった」
「面白いって言ってたじゃん」
「想くんが好きって言うから好きなふりしてた」
ここ、予告では「好きなふりしてた」ってところだけ流れていて、これが「想くん」に対しての言葉だったらあまりにも切ないなって思ってたから、だから「本」に対してでよかった。想くんを好きな気持ち、奈々が嘘にしないでよかった。
もうほとんど告白みたいなことを言ってしまって咄嗟に持っていた本で顔を隠す奈々かわいい。一歩、距離を縮めて本を奪うけど、また奈々に奪われて、そしてまた想が奪い返して笑い合う。普通だったら、両思いの人がするやりとりに見えるのに、甘酸っぱいねってなるのに、この二人はどこか切ない。
「振らなくていいよ。振った側って悪者みたいになるでしょ。勝手に好きになられただけなのに。想くんは今までもこれからもずっと友達。悪者になろうとしなくていい。大丈夫」
この短期間で、こんなこと言えるまでに気持ちにけりをつけた奈々って本当に偉いよね。本当はまだいろんな思いがあるんだろうけど、でも、ちゃんと諦めようとしてるの偉い。今、間違いなく一番辛いのは奈々なのに、想くんのことを思ってこんな言葉をかけられる奈々は、めちゃくちゃいい女だし、絶対絶対幸せになってくれよなって心の底から思った。そして、絶対に想くんも幸せにならないといけない。
萌ちゃんとお母さん。
「想、高校の時の友達にあってるの?」
「うん。普通に仲良くしてるみたい。え、何が不満なの?よかったじゃん。お兄ちゃん楽しそうだよ?みんなとフットサルして。高校生の時みたいに」
「高校生の頃みたいにいかないでしょ、その頃とは違うんだから」
「ここ何年もあんな風に人と会わないでいい仕事して、奈々ちゃんしか友達もいなくて。声だって滅多に出さなくなっちゃって。聞こえる人と関わると傷つくから。だからそうしてきたの。やっと、静かに…落ち着いた生活ができるようになったのに。あんな刺激のある人と関わらせたくないの」
「それは…それは、お母さんの自己満足だよ」
萌ちゃんとお母さんのシーンはいつも心にグサってくる。
どっちも想のことを想っていて、それは同じなのに、絶対に交わらないから苦しい。
今回の第7話の裏テーマは「自己満足」だと思っていて。このシーンも、紬が奈々に会いに行くシーンも、奈々が想に手話を教えたことを「自己満足」だと言うシーンも、全部全部、誰かの自己満足。でも、このドラマに出てくる人の自己満足は、いつも誰かを思っての自己満足だから、だから見ていて苦しくなる。
「あのさ、いつからって言ったけ?耳悪くなったの」
「18歳」
「それって、そう言う場合ってさ、喋れないもんなの?」
聴者にはわからない世界。決して傷つけるために言ったわけじゃない、単純な疑問を投げかけただけでも、想には深く刺さってしまう。
ちょっと疲れた顔で待ち合わせのファミレスにくる想。
仕事の愚痴を手話で話すけど、難しくて紬にはわからない。
奈々のことを聞くけど、やっぱり「気にしないで」と言われてそれ以上は聞けない紬。二人の中で流れる噛み合わない空気。
「ずっと、気になってたんだけど。」
「何?」
「声で、喋らないの、なんで?」
「……」
さっき会社でも言われてちょっと疲れていたのもあいまって、しかもそれを他でも無い紬に言われるのもあって、複雑な表情を浮かべる想。
「元々、聞こえてた人だと声で話す人が多いって聞いたから。佐倉くん、なんでかなって。」
「……」
「あっ、声、出してってことじゃなくて、私が、手話わかんない時、わざわざ繰り返したり、文字打ったり、めんどくさいかなって思って」
「この時間がもどかしいから声で話せよってこと?」
「違うよ、そんなこと思ってない。理由があるのかなって思っただけ」
「(声が好きなんだもんね)」
ここ、切なすぎて胸が苦しかった。
ああ、そっか。想は、紬が自分を好きな理由は「声が好きだから」だと思ってるんだ。もうあの頃みたいに話せない想のこと、紬は、好きじゃないって思ってるんだ。湊斗と話したフットサルのロッカーの前で、「耳、聞こえないんだよ?」って言った時、単純に、「聴者と付き合った方が紬は幸せだ」ってことが言いたいのかと思っていたけど、それももちろん意味合いとしてはあっただろうけど、でも、「あの頃みたいに話すことができない自分を紬が好きなわけがない」って思いもあったんだ。あの頃、高校生の頃、スポーツも勉強も、なんだって出来て学年1モテてて、そんな想くんからは想像もできない卑屈な言葉に、胸が苦しかった。この8年間が、そうさせたんだなって思って苦しかった。紬の気持ちが、伝わらないのが苦しかった。
落ちて割れたコップ。すごい音。だけどそれにも想は気づかない。「聞こえないんだから気づかないですよ」っていつかの風間ぽんが湊斗に言ったセリフが聞こえた気がした。そんな普通の出来事も、聞こえる人と聞こえない人で線が引かれたような気がして、分かり合えない描写が辛かった。二人の表情がどんどん暗くなって行くのがもっと辛かった。
紬とマコ。そして湊斗からの電話。
「結婚するんだ!?」
「えっ?」
「違う違う。戸川くんじゃなくて」
ここのシーン、正直私はまだ紬は湊斗に未練があるんだなあって思ったんだけど、どう?さっきの想と紬の分かり合えないシーンの後だったから、余計にそう思ってしまった。いざ、想くんに直面してみて、やっぱりあの頃のようには何でもかんでも行かなくて、そんな時にかかってきた湊斗からの電話に少しなんだろう、落ち着きを覚えるって言うか、あ〜湊斗だなあ〜って思う感じというか。(ごめん、視聴者の私が思った、って言うのもある)
でも、想くんの話を湊斗に普通にする紬にちょっとね、違和感。
違和感っていうか、ちょっと嫌な言い方になるかもしれないけれど、紬は紬でやっぱりずっと「選ばれてきた人」なんだなあって思った。
想に、「選ばれてきた人」
湊斗に、「選ばれてきた人」
だからこそナチュラルに、湊斗に想の相談ができるんだろうなあって思った。そしてそれは、奈々に会いに行くのもそう。「選ばれてきた人」だからこそ、できること。
奈々に会いに行く紬。
紬はまっすぐ。本当にまっすぐ。
「佐倉くんから、奈々さんのこと聞きました。話を聞いてくれる人って言ってました。誰かに話を聞いて欲しかった時に出会って、不安とか悩みとか、全部聞いてくれたって。出会わなかったら、生きてこれなかったって言ってました。音がなくなって行くのは悲しかったけど、音がなくなってからも悲しいだけじゃなかったのは、奈々さんがいてくれたからって。」
「……」
「あ、あの、佐倉くんに、そう伝えてって言われたんじゃないです。奈々さんがどういう人か聞いたらそう言ってたんです。今の佐倉くんがいるのは奈々さんのおかげなんだなって。私に感謝されても、全然嬉しくないと思うんですけど。でも、伝えたくて。私は、この8年、ただ元気にしてるかどうか、それだけずっと心配でした。また会いたいとかより、とにかく毎日誰かと笑って過ごして欲しいって、それだけ願ってました。だから、佐倉くんのそばに奈々さんがいてくれて本当に良かったです。佐倉くんが一番そう思ってます。ありがとうございました。」
どんな人?って聞かれて出てくる言葉はその人の好きなところっていう第6話での湊斗の言葉を思い出した。想が、奈々を好きな部分が見えて嬉しかった。
紬のまっすぐさは、時に誰かを救い、そして時に誰かを傷つけそうなくらい、まっすぐ。
私がもし、奈々の立場だったら。この言葉を言葉通りまっすぐに受け止めきれないかもしれない。でも、手話教室の先生に訳してもらって、事前に全部全部確認してから、手話を覚えてくる紬は本当にただただまっすぐだから。だから、こっちもまっすぐに聞きたくなる気持ちになる。
「上達したいならとにかく手話で話すようにしたほうがいい。想くんとたくさん話したほうがいいよ。」
「あげたプレゼントを包み直して誰かに渡された気分」って言った奈々が、こんな言葉をかけられるなんて、すごく大人だなあって思った。決して間違ってない、そう思ったって仕方ないのに、紬のまっすぐさに直面して、こんな言葉をかけてあげられる奈々は本当にいい子だし、やっぱり絶対幸せになれよな!!!!!
図書館に本を返しにきた奈々。
小さな男の子に連れられて歩く想。高い場所にある本を取って欲しいけど、聞こえない想にはそれがどれだかわからない。
迷った挙句、何かを考えついた顔をして、男の子を持ちあげた想。
見つかった本。笑い合う二人。声がなくても通じ合った。
好きな人のそういうところはね、ずっと見ていたくなっちゃうよね。
そういう何でもないところがね、ああ、好きだなあって思っちゃうんだよね。
恋したことある人ならきっと分かるであろうこういう描写を入れてくる感じ、やっぱりうまいなあ。きっと奈々も、ああ、やっぱり私、想くんのこと好きだなあって思ったと思う。そして、「聞こえる人」と「聞こえない人」であっても、ちゃんと通じ合うことはできるってこと、示してくれたね。
想に見つかっちゃってちょっと気まずそうに笑う奈々。曖昧に微笑む想。
「青羽と話せた?何話したの?」
「想くんに近づかないでくださいっていう修羅場になるのを覚悟してたけど、全然和やかだった」
「この8年、どれだけ想くんのことを心配してたかって熱弁された。下手くそな手話で一生懸命話してくれたよ。言いたいことまとめて、手話教室の先生に訳してもらったんだって。真面目だよね。手話覚え始めた頃の想くん思い出して、ちょっと可愛く思えた。気持ちを伝えようって必死になってくれる姿って、すごく愛おしい。まっすぐにその人の言葉が自分にだけ飛んでくる。想くんもあの子と話してると、そんな気持ちなんだろうなって思った。この前、プレゼント使い回された気分って言っちゃった。私が想くんに教えた手話が、あの子に伝わって行くの。でも今はおすそ分けしたって気持ち。あげて良かったって思った。」
「奈々に手話教えてもらって本当に良かったって思ってる」
「想くんのために教えたんじゃない。私と話して欲しかっただけ。私の自己満足だよ。こうやって手話で話せて満足。お互い耳が聞こえて話すのも、ちょっと憧れだったけどね」
「たまに夢に見ることがあって。奈々も俺も耳が聞こえて、電話したりお互い両手に荷物抱えて声で話したり、多分、奈々の顔や性格でこんな声かなってイメージできるんだと思う。夢で話すときは、その奈々の声が聞こえる。起きるともう、どんな声かよく覚えてないんだけど」
「良かった。私も似たような夢見るけど、音がないから。想くんの夢の方でちゃんと声出てるなら良かった。私にも想くんの声、聞こえてるなら良かった」
「奈々、声でもすごいしゃべってるよ」
「シー!!!!!!!」
「怒られてる」
ここのシーンが第7話で一番好きなシーンでした。
やっぱり奈々は大人。こんなこと、私なら言えない。
第6話で、奈々の夢は、想くんと「手を繋いで」、声で話しながら歩くことだった。
でも想くんの夢の中では二人は「荷物を抱えてて」、両手が塞がってて、それでも声で話して歩いていた。この違いがね、二人のお互いに対する感情の違いが表れていてちょっと切なかった。
そして、同じく第6話では二人の共通言語は手話だから、静かな図書館で話していても怒られなかったのに、第7話では思わず漏れ出た二人の笑い声に反応して、怒られてるのかわいい。聴者とろう者の差がなくなっていく。
3年前に発売された、想が大好きでよく聞いていたスピッツのアルバム。
思わず、想はこれを聴けたのか気になる紬。
待ち合わせする二人。何回見ても思うけど、「ん?」って顔の想くんは世界一愛くるしいし、「お待たせ」って手話する紬は世界一可愛い。
「本、好きだよね。高校生の時から得意だったし。国語」
「うん」
「だってあれ、作文」
「作文?」
「高2の時、佐倉くん書いたやつ」
「あれ青羽にあげたよね?」
「まだあるよ。うちにある。読み、来る?」
「……」
「違う違う。家に来る?って意味じゃなくて、いやそういう意味なんだけど、そうじゃなくて…」
「行こうかな」
動き出した二人の時間。
なんとも言えない緊張感が伝わってこっちまで恥ずかしくなる。
紬の家にきた想。
なんでこんなに無音なんだろうって思ったら、そっか。
もうこの二人は一緒に音楽を聴くこともテレビを見ることも、映画を見ることもないんだ。そういう世界にならないんだ。そう思ったらちょっと切なかった。
なんとなくお互いの緊張感が伝わってくる。
「最近覚えた手話教えて?」
「最近?ん〜、あっ!片思い」
「覚えなくていいよ」
「だよね」
きっと両思いであることはお互いにもう分かっていて、でもあと一歩、何かのきっかけがないと踏み出せない。そのなんとももどかしい感じがこの会話でわかるのがいい。
「あ、作文作文」
立ち上がった紬の手を咄嗟に掴んで座らせる想。そのまま両手を握って見つめる。
伝えたいことをまっすぐに伝えたいって思いと、お互いに両手を塞ぐことで、手話に頼らないっていう意思表示が見える。紬だけじゃなくて、想も両手塞がってるのと一緒だから。
咳払いして、声を発しようとする想。
「いい。いいよ。大丈夫。喋んなくていいよ。ごめん。この前、無神経なこと言ったから。違うから。声好きだったけど、それは本当だけど。でも、声以外も好きだから。だから大丈夫。無理に喋んなくていいよ。喋んなくても、好きだから。大丈夫。」
「……」
「好きとか言っちゃったけど、手話してないし、セーフ。それ以外訳すね。ちょっと、手を離して頂いて…」
抱きしめる想。
想の背中をトントンって叩く紬。
強く抱きしめ返す想。
「うん…伝わったね」
ファミレスで、いやもっと前かな、奈々と対峙した後に紬を追いかけて二人で座ったベンチのシーンから、お互い手話を使ってもどこか通わなかった心が、手話がなくても通じ合った。きっと、「好き」って言葉までは分かってなかったかもしれない。でも、あの頃好きだと言ってくれた声を、いい、喋んなくていい、と制御したことは今の想にとって、すごく大きな「好き」になったんじゃないかな。8年前、あの公園で、言えなかった想いがようやく通じ合った、そんな気がした。思わず溢れ出した思いを、手話でもなく、声でもなく、抱きしめることで表現した想くんに私は泣きました。好きです。そんなん好きしかない(私が告白してどうする)
第6話で風間ぽんに想のことを「どんな人?」って聞かれて、「好きな言葉をくれる人」と答えた紬。湊斗曰く、それは相手の好きなところ。だけど、言葉をくれなくても、何も話さなくても、好きだから、大丈夫、と伝えた紬。うん、片想い、って手話はいらないね。
さて、誰しもが思ったであろう、え、来週無いの!!!!????来週生きてる???ねえ、私生きてる?????現象。大丈夫そ?みんな生きてる?でもまあなんとかいい子にして待ってようと思うので、第8話も楽しみにしてます。撮影も佳境かな〜〜〜〜みんなめちゃくちゃ忙しそうだけど頑張って〜〜〜!!!!!!